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2023年5月5日金曜日

はじめての蛍光撮影

 最近オークションで手に入れた顕微鏡に落射蛍光装置がついていました。
それが目当てで買ったのではなく、特に蛍光観察に興味があったわけでもないのですが、折角ついているものだから使わない手はありません。予備知識もほとんどありませんが、ネットであれこれ調べてみると蛍光試薬を使わなくても、植物細胞などの自家蛍光の観察だけでも結構楽しめそうなので、試してみることにしました。
装置にはまだ寿命のありそうな水銀ランプと大きな電源も含まれていましたが、水銀ランプは取り扱いが面倒そうです。もともと本格的な蛍光観察に挑戦するつもりもないので、さっさとLEDに交換することにしました。

4個の蛍光キューブのうち1個はフィルターが剥離していましたが、残りの3個は使えそうです。で、それぞれの励起波長に対応する単色LEDをネット通販で取り寄せ、細長いヒートシンクに並べて取り付けました。すべて3Wで、それぞれUV、B、G励起用です。

水銀ランプを取り外したランプハウスにセットしたところです。使用するLEDをヒートシンクを上下にスライドさせて光路に入れ、スイッチで切り替えられるようにしました。ひとまずこれで使えそうです。

手はじめに冷蔵庫からレタスの葉をひと切れ失敬してきて、剥がした表皮を覗いてみました。その昔、親に買ってもらった顕微鏡ではじめて見たものの一つがツユクサの葉の気孔だったことを思い出します。これは対物25XでUV励起。

同じく対物25XでB励起。孔辺細胞の葉緑体が点々と赤く光っています。それにしても、こういう画像のホワイトバランスはどう設定すればいいんでしょうか。視野が全体に赤っぽくなるのでとりあえずタングステンに設定しましたが、前のUV励起の画像はそれではほぼ青一色になるので、スライダーをかなり動かしています。

これもB励起で、対物100X。予想はしていましたが、照明の暗いのには難儀します。部屋の明かりを消してピント合わせもPCのモニタが頼りですが、露出時間は長くなり、接眼レンズからの逆入光の影響も出るので、双眼部に覆いを被せて撮影しました。

アオミドロも撮ってみました。対物40x、B励起で、14枚の深度合成です。

同じくアオミドロですが、輪郭を出すために弱く暗視野光を入れてみました。対物25X、B励起、18枚の深度合成です。

アオコの一種、ミクロキスティス。対物40X、G励起です。

同じく、UV励起。

対物25X、B励起で、ボルボックスの娘細胞です。娘細胞は小刻みに動いていることが多いのですが、これは動きのないものを探して撮影しました。
新しいおもちゃはまだ分からないことばかりですが、いろいろ勉強して楽しく遊べるようなりたいと思います。

2021年12月30日木曜日

MWS バルバドス産放散虫標本

以前から是非1枚我が家にも、と願っていたミクロワールドサービスさんのバルバドス産放散虫プレパラートを、先日の年末セールで初めて購入することができました。「ニセ散布スライド」というものですが、化石放散虫の骨格がびっしりと敷き詰められたとても美しい標本で、特に中低倍率の暗視野では素晴らしい眺めです。見ているだけでも楽しいものですが、ここ2、3日はMWSさんの「本日の画像」をお手本にあれこれ照明を工夫しながらせっせと撮影していました。なかなかなお手本のようにはいきませんが、普段生きた物ばかり相手にしていると時間に追われる場面が多いので、こんなふうにじっくり腰を据えて撮影出来るというのもいいものです。次に作例を何枚かお見せしますが、なにしろ封入されている数が膨大なので、楽しみは尽きません。

全景です。


暗視野。こちらを使っています。

透過明視野+上方からストロボ光。

透過明視野+深度合成。

偏斜照明+深度合成。

2021年5月7日金曜日

ストロボを使った顕微鏡撮影について(つづき)

一昨日の記事の続きです。
顕微鏡撮影にストロボを使うようになったきっかけは、20年ほど前に行きつけの中古カメラ店から引き取ってきた古いツアイスの顕微鏡でした。一面にパラフィンがこびりついてジャンク同然に見えましたが、連日格闘した結果十分使える状態になり、大量の付属品の中には本で見たことのある微分干渉装置というものが含まれていることも分かりました。使い方もよく分からないままその微分干渉装置を取り付け、それらしい像を初めて見たときは感動したものですが、これで原生動物などを撮影しようとすると光源が少々非力で(8V15W)動くものを撮影はかなり困難、そこでストロボを使う方法を考えてみることになりました。

当時の撮影風景です。対物レンズは沢山ありましたが微分干渉に対応しているのはPlan16X/0.35とPlan40X/0.65の2本だけ。アナライザーはリレーレンズが曇っていてコントラストを落とすのですぐに使うのをやめて、㈱光洋のカタログで取り寄せたポラロイドの偏光板を3眼鏡筒の下に置いて代わりにしました。上の写真のニコンのPFM(これも同じ店で買った)はやがてフィルム一眼レフ、さらにデジタル一眼レフに代わりましたが、中古のオプチフォトを手に入れるまで15年以上これが主力機になっていました。
ストロボ撮影装置は、顕微鏡の下に見える木の箱です。


このツアイスの顕微鏡は裏返すと裏蓋というものがなく、ランプのコレクターレンズから前方のレンズと反射鏡までの間にも何もありません。それでこの部分でストロボ光を割り込ませることにしました。撮影時には手前に見える窓にストロボの発光面をあてがいます。ストロボ光は古いルーペのレンズを通り2枚の鏡で反射して顕微鏡の光路に入りますが、鏡の1枚は可動式です。使った材料は有り合わせのアルミ材や手鏡、タミヤのギヤボックスの部品などでした。

右に見えるレバーを押すと2番目の鏡が上がってハロゲンランプの光路を遮り、代わりにストロボ光を導入します。一眼レフに使われるクイックリターンミラー以前の、距離計連動カメラの時代に作られていたミラーボックスのような動作です。シャッターとの連動には最初は二又レリーズを使い、カメラをワインダー付きの一眼レフに替えるとマイクロスイッチを仕込んでリモートコードを繋ぎ、最後にデジタル一眼になるとスイッチをもう1個増やしてシャッター半押しに対応させました。
もともと設計が理に適っていない上に今のデジタルカメラのようにその場で撮影結果を見ながら調整を加えていくということもできないので、効率が悪くて光量が十分でなかったり照明ムラが出たりと問題は色々ありましたが、とにかく動き回る動物プランクトンをスナップ風にパチパチ撮りたいという目的は一応これで達せられました。

フィルムカメラ時代に上の機材で撮影したものをいくつか出しておきます。2001年から2005年頃の撮影ですが、当時の撮影法は顕微鏡に付いていたものの他にニコンやオリンパスの接眼レンズを使ってコリメートで撮ったり、その接眼レンズを少し持ち上げて投影レンズ代わりにしたりと、かなりいい加減なものでした。すべてネガフィルム原版を複写したものですが、経年劣化のせいかデジタル化のせいか元々あった色ムラがさらに強調されているようです。

スピロストマム DIC Plan16X/0.35 

ゾウリムシ DIC Plan40X/0.65

トリコディナ DIC Plan40X/0.65

ゴニウム DIC Plan40X/0.65

腕足類の幼生 異色照明 Neofluar6.3X/0.20

二枚貝の幼生 異色照明 Neofluar6.3X/0.20

2021年5月5日水曜日

ストロボを使った顕微鏡撮影について

いつもご覧いただいている方はお気づきかも知れませんが、このブログに掲載している顕微鏡写真の多くは光源にストロボを使っています。海外サイトで見る原生動物やワムシの写真ではストロボ使用は珍しくはないようで、最近ではそのための装置を作って販売されている方もあるようですが、日本のサイトではあまり見かけません。使用上いろいろ問題もあって定常光源にとって代われるものではありませんが、動きの速い動物プランクトンの撮影などには大変有用な面があると思うので、私が現在用いている方法をここで紹介します。

これは今使っているニコンオプチフォトにストロボ装置をセットした状態です。4年ほど前にこの顕微鏡を入手した時に作ったもので、その後多少の変更を加えています。
中央の黒い箱の中に集光レンズ、コンデンサの下に見える箱の中には45°に傾けたガラス板を入れてビームスプリッターとしています。ただの透明ガラスなので主光源からの光にはほとんど影響はなく、またストロボ光は非常に強いので通常の撮影で光量が不足することはまずありません。微妙な高さ調節が必要なのでストロボは小型のラボジャッキに載せています。顕微鏡の操作には非常に邪魔になりそうな配置ですが、慣れるしかありません。また常に定常光とストロボ光がミックスされているので、ストロボ撮影の場合でもシャッタースピードが遅かったり定常光が強すぎると画像に影響してしまいます。

集光レンズを収める箱は3mm厚の発泡塩ビ板で作りました。中のレンズは以前ジャンク品で入手した古いスライド映写機から取ったものです。テストをしながらレンズの位置を変えられるように差し込み溝をいくつか作っています。低倍率の場合に照明ムラが出ることもあるので、必要に応じてここに拡散板も入れます。

このストロボ(キャノンの550EX)は前面パネルの後ろで放電管の入ったケースを前後にスライドさせ、照射角を変える仕組みになっています。顕微鏡光源としては出来るだけ均一な発光面が欲しいのですが、照射角を変えながらパネル面を撮影してみるととても均一どころではありません。もちろん、拡散板を間隔を開けて何重にも重ねるとかなり均一な発光面が得られますが、どんどん光量が落ちていきます。いろいろテストを繰り返した結果、照射角を最も広角側に設定し(放電管が前面パネルの直下)、その前にアクリル製の棒状ルーペ(シリンドリカルレンズです)を置く方法に落ち着きました。

ストロボの発光状態を前面から撮ったテスト画像です。左は照射角を最大(24mmレンズに対応)にした状態で、実際はもっと広い範囲が写っているはずなのですが、中央の4X1.5cmほどの部分以外は真っ暗です。右はその上にシリンドリカルレンズを載せたもので、撮影倍率は同じです。

ストロボ光をコンデンサに導くためのビームスプリッターで、左が最初に作った通常照明用です。オプチフォトは微分干渉装置を使う際ステージを3cmばかり下げなければならないので、右はそのために高さを低く作ったものです。これは上下の2個パーツに分けて、上部が左右にスライドできるように作りました。どちらも枠は発泡塩ビ、ガラス板は約0.7mm厚で、6X7判用のスライドマウントに入っていたものをカットして使っています。また微分干渉では高倍率の際ガラスだけでは光量が不足気味になるので、ダイソーで買ってきたスマホ用のハーフミラーシートを貼り付けています。これで光量が2EVばかり稼げましたが、その分主光源からの光量が落ちるので動画撮影などの際には光路から外さなければなりません。またビームスプリッターで反射させると偏光が生じて、微分干渉ではその方向も考えなければなりません。1枚目の画像の配置ではポラライザーの偏光軸と45°くらいで交わるので多少光量がカットされるのですが、装置全体を45°回転させると顕微鏡の操作に差し支えるのでこのまま使っています。

ストロボ撮影で厄介なのは、照明された状態を肉眼で見ることができないことです。確認するにはテスト撮影をして画像を見るしかありません。上はそのテストをしているところで、微分干渉装置を付けた時のコンデンサ開口絞りの位置に置いたスクリーンに光源像を投影しています。

上の方法で真上から撮った光源像です。左がオプチフォト付属のハロゲンランプ、真ん中がCOBタイプのLED、右がストロボで、黒い円の直径は27mm、撮影倍率はすべて同じです。ストロボではまだ照度ムラが残っているので、現在ではシリンドリカルレンズの下に拡散板を加えています。
実際の撮影で定常光とストロボ光を比較してみると、通常の明視野や微分干渉などではあまり差が感じられないのですが、高倍率の偏斜照明ではかなり違いが出ることもあります。

次はいつものMWSさんのプレパラートを対物100/1.25の油浸、旧型の(千代田?)アッベコンデンサ1.25、偏斜照明で撮影したものです。1枚目が定常光(LED)、2枚目がストロボで、色収差が強いのでグリーンチャンネルだけ取り出しています。


陰影の付き方にかなり違いがありますが、まずは実用範囲内だと思います。もっと解像限界に近いような撮影では問題があるかもしれませんが、そんな目的にあえてストロボを使うこともないでしょう。
その他、この方法では視野絞りが使えないという問題もあります。理想的には光源にごく近い位置でストロボ光を導入するのが良いのでしょう。昭和44年発行の「顕微鏡写真」に(竹村嘉生編)各顕微鏡メーカーの装置の図が載っています。ニコンとツアイスでは主光源の位置にストロボ放電管を置き、タングステン球はその後ろに置いて集光レンズによりフィラメントの像を放電管の中心に投影するという方式、ライツではそれぞれの光源にコレクターレンズを配したものを光軸を直交させる位置に置き、反射鏡で光路を切り替える仕組みのようです。どちらもケーラー照明が可能になりますが、素人工作で実現するのは難しいかもしれません。
逆にあまり細かなことを気にしないならば、集光レンズなど抜きにして、コンデンサの下に置いた拡散板にガラス板で反射させたストロボ光を照射するだけでも十分な画像が得られます。レンズの下で跳ね回るミジンコでも高速で運動するゾウリムシの繊毛でもブレることなく確実に写し止められるので、関心のある方は試してみる価値はあるでしょう。

2021年3月7日日曜日

暗視野コンデンサのお手軽工作

今回は気分を変えて顕微鏡関連の工作を一つ。
古い顕微鏡の本によく図の出ている、パラボロイド型というのを真似た反射式の暗視野コンデンサです。もともと2Xの対物の視野をカバーできるものが欲しくて作ったものですが、一応40X、NA=0.7のレンズでも使えます。こちらこちらの写真や動画は最初の試作品での作例ですが、今回また新たに作り直しました。よく使用される、アッベコンデンサに中心絞りを入れたものに比べると効率が悪い(つまり暗い)のが難点ですが、眼視観察や動かないものの撮影なら問題ありません。材料費はコーヒー一杯分以下、難しい工作も必要ないので顕微鏡好きの方、コロナ自粛下の暇つぶしにいかがでしょうか。

主な材料はこれだけです。要となる凹面鏡は百均のLED懐中電灯から調達しますが、写真のものは近所のダイソーで買ってきました。同じような製品はたくさんあって、とりあえずLED1個で集光レンズではなく大きめのお椀型の凹面鏡で集光するタイプであればどれでも使えそうですが、ものによって反射鏡の形状に多少の違いがあるので照明効果も違ってきて、結果は作ってみなければ分かりません。その他には黒の色画用紙とCD用のソフトケースです。

部品はこれで全てです。凹面鏡は適当な位置で底を切り取って平らに仕上げます。今回は穴の径を15mmにしました。スライドガラス底面に接する部分なので、やすりや紙やすりを使ってなるだけ正確に水平に仕上げないといけません。前面の透明カバー(この商品は珍しくガラス製でした)の中心には黒画用紙で径17mmの中心絞りを貼り付けます。中央は円筒型のディフューザーです。

ディフューザーは無くても良い場合もありますが、そのままでは局所的な照度ムラがどうしても残るのと、視野がギラつくような見え方になりやすいのであった方が良いでしょう。材料はいろいろ考えられますが、ここでは薄くて扱いやすく、適度なシボ加工が施されているCDソフトケースの外側の透明シートを使いました。黒画用紙を巻いて作った円筒を芯にして、その上からシートを巻き付けます。上の写真ではシートは一重巻きで、OPPテープで固定しています。二重にすると拡散効果は高くなりますが光量は減ります。直径は凹面鏡に開けた穴にぴったり収まるように、高さはシートの先端が穴の縁からわずかに覗くくらい。黒画用紙の芯は外側のシートより5mmほど低くしていて、その上のシートだけの部分がディフューザーになるわけです。

間にディフューザーを入れ、凹面鏡と中心絞りを貼った透明板を固定すればひとまず完成ですが、絞りの直径やデフューザーの適否は検鏡してみないと分かりません。必要なら交換できるように縁に沿って3、4箇所、接着剤で軽く止める程度がいいのですが、瞬間接着剤は気化成分が鏡面やガラス面を白く濁らせるので使えません。

ニコンオプチフォトのコンデンサ受けにセットしたところです。単体では高さが足りないのでM42の中間リングの上に載せています。ここは単なるスペーサーなので他の何を使っても構わないのですが、M42の雄ネジの部分がコンデンサ受けの顎にうまく収まって具合がいいのです。写真では昇降装置を目一杯下げていますが、観察時はコンデンサ上端がスライドガラスに接するぎりぎりまで上げなければなりません。上げ過ぎるとぶつかるので、できればスペーサーの高さを調整してその直前で止まるようにするのがベストです。芯出しはコンデンサ受けの上を滑らせて行います。

以下、テスト撮影。被写体はMWSさんの珪藻プレパラートです。

まず最初は対物2x/0.08 PlanApo、接眼CFUW10X(視野数26.5)の視野で、コンデジを接眼レンズに押し付けて撮ったもの。視野外周部が白けていて、また周辺減光もありますが、視野数20くらいの接眼であれば気にならない程度でしょう。

これは同じ2X対物で、拡大率は35mm判換算で約2.1X。長辺で約8.5mmの範囲が写っています。

PlanApo10X/0.4。拡大率は35mm判換算で約2.7X(以下同じ)。

PlanApo20X/0.65。


この2枚はPlan40/0.7。

Plan100/0.90dry。さすがに暗視野にはなりませんが輪帯照明でちょっと位相差っぽい画像になりました。

最後に、上に紹介したものをその通りに作っても機材や条件によってうまく機能しないかも知れませんが、なにしろ材料費は僅少ですからそこはカット&トライで、いろいろ試してみればいずれ使えるものが出来上がるはずです。興味を持たれた方、是非お試しあれ。


2020年4月12日日曜日

顕微鏡写真に RawTherapee のフラットフィールド機能を

RAWファイルの現像には以前はアドビのCamera Rawを使っていたのですが、現在自分で使っているカメラにはすでにほとんど対応しなくなっていて、かと言って最新バージョンを使うためにCCを購入する気にもならないので数年前からは主にフリーソフトのRawTherapeeのお世話になっています。
これは基本的な色調やコントラスト、シャープネスなどに関して恐ろしく多機能なソフトで、実のところ未だよく理解も出来ず使ってもいない部分も多いのですが、その中にフラットフィールドという機能があります。これが顕微鏡撮影には非常に有用なのですが、せっかく無料で用意されているのにあまり知られていないようなので(新型ウィルス騒動のおかげで時間もあるので)、ここで紹介しておきたいと思います。
これは光学系や照明など被写体以外に起因して画像に現れる明るさや色のムラを取り除くために使われるもので、顕微鏡撮影の場合は照明ムラやコンデンサー・リレーレンズ、センサーのゴミなどの影響を打ち消すのに有効です。ただこの機能が使えるのはRAWファイルに限定されますが、色調やコントラストなど他の調整を施した後でも適用できます。


使い方は簡単です。まず補正したい画像を撮影した後、プレパラートを動かして何もない空白の部分を探します。と言っても完全にゴミもチリもないという状態はまず望めないので、ごく小さなものなら我慢します。そしてそのごく小さなゴミが見えなくなる程度に少しピントを外しますが、外す量が大きすぎると照度分布が変わるのでよくありません。その状態で撮影したものを補正用の画像として使用するのですが、その間コンデンサーの位置や絞り、カメラの角度など一切動かしてはいけません。露出も変わらないように、マニュアル設定の方が良いでしょう。
後は補正したい画像をRawTherapeeで開き、フラットフィールド機能を選んで、補正用の画像を適用するだけです。以下は作例です。

これが補正前の画像です。オリンパスBHCに短鏡胴のプランアクロマート40/0.65で偏斜照明、ニコンのHKW10Xにマイクロニッコール55mm F3.5をつけたD7000でのコリメート撮影です。盛大に出ている大小の影はコンデンサーやリレーレンズ、撮影レンズなどのゴミや傷によるものでしょう。被写体はMWSさんの珪藻プレパラートです。

同じ条件でもう1枚。

そしてこれが補正用画像。

補正後の画像です。偏斜による照明ムラや、ゴミ・チリの影が見事に消えています。

もう1枚も。

次はコンデンサを目一杯絞った画像です。通常ここまで極端に絞ることはありませんが、コリメート撮影でよく出る同心円状のムラや青っぽいハレーションが見えます。

上の補正用画像。

補正してかなりすっきりしました。まだ残っている黒い斑点はカバーガラスやスライドガラスに付着したゴミで、これはこの機能では取れません。

最後に少し補足説明を。フラットフィールド補正の調整項目にある「ぼかし半径は」デフォルトでは32となっていますが、この設定では小さな影は取り切れないので、0かそれに近い数値にした方がよいでしょう。この数値を小さくすると補正用画像のノイズを拾う可能性が高くなるそうですが、実際に試してみるとISO100や200の常用感度ではまず影響はないようです。被写体によって高ISOで撮影する必要がある場合も補正用画像の方はISO値を低くして撮影しておけば問題ないでしょう。

以上のように大変重宝な機能なのですが、実は私自身はそれほど使っていません。動き回る動物プランクトンを元気なうちにと倍率や絞りを変えながらどんどん撮影していく場合が多いので、補正用画像の撮影が追い付かないからです。撮影後、照明ムラやゴミの目立つ画像を見ながら後悔することも多いのですが。他には、昔のネガやポジの複写をする際の照明ムラの補正に使っています。

RawTherapeeは他にも面白い機能が多く、例えば「詳細レベルによるコントラスト調整」では特定の周波数域のコントラスト調整が出来て珪藻の条線の表現などに役立ちそうだし、長時間露光によるノイズをキャンセルするダークフレーム補正などは普通天体画像用ソフトにしか備わっていないものです。

RawTherapeeのダウンロードはこちら。頻繁にアップデートを繰り返して最新型のカメラにも次々と対応してくれています。またこのソフトのマニュアルであるRawPedia(日本語)はこちら。かなり専門的な解説が多く私のような素人にはかなり難物ですが、読んでいると勉強になることが多々あります。